これは、君に聞いてほしい、小さな物語

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今日、行政書士試験を受けてきた。 

1年前、同じように試験を受けたときは悲惨な結果だった。
独学で7ヶ月勉強して、イマイチ吸収しきれていない中、ミラクルが起きることを祈りながら受験するも、ミラクルなんて起きるはずもなく、散った。
試験日が近づく中、ヒステリックになりながら、試験前の1ヶ月は特に集中して頑張った。けど、残ったのは疲れだけ。0は1にならなかった。肩を落としながらも、そりゃそうだ、そんな簡単に受かるわけないと、冷静さを取り戻し、翌年に向けて動き出した。

そうはいっても、4月末までなにかと忙しく、しっかり腰を据えて勉強し始めたのは試験のやはり7ヶ月前の4月末から。やばいかなーと思いつつ、でも今年は去年の貯金があるからゼロスタートではない、大丈夫とそこからコツコツ勉強し始めた。

仕事を終え、家事が終わってからが勉強タイム。でも毎日その時間を迎えるまでに疲れてヘロヘロになってしまう。仕事は緊張感を持ちつつ、ずっと小走りしているような忙しさであっという間に時間がすぎる。緊張もするしブルーな日もあるけど仕事は楽しい。でも全力で臨む分、疲れるのも事実だ。
そんなことを言い訳にして、ときには勉強せず1日を終え、ときには焦りを感じ勉強をしながらあっというまに試験が目前に。 
 
去年不合格になってから今日まで、なんだかんだ言いながら勉強はしてきた。通勤時間はアプリや参考書で勉強したし、帰ってからテキストを使って問題に取り組んだ。好きな読書も、ブログを書くことも、外に出かけることも、実家に帰ることもすべて我慢し休みの日は勉強に勤しんだ。

試験2週間前、旦那さんの実家で稲刈りがあって、本当は私も向かうべきなのだが、勉強を理由に行かなかった。けど、みなさん笑顔で応援してくれた。「合格必勝」のお守りもくれて。
あーやばいな、ほんと受からないと顔向けできないな、なんて良い意味で自分にプレッシャーをかけて。

デスクワークに加え、帰宅してからも机に向かうことで肩はバキバキだし、眼精疲労はひどいし、おしりの形は悪くなるけど、そんなことに気遣ってはいられない。だが、試験の1週間前には、急に顔のあちこちににきびができた。なんで?急に?あぁそうかストレスか。そういえば去年は試験の1〜2週間前に、急に目のまわりがぷっくり腫れたっけ。現れ方は違うけど、体がサインを出しているんだな。改めて、ストレスって毒素なんだなと体の仕組みを知る。で、どうしたらいいわけ?と苛立ちながら、顔にパックをし、肩を回しながら、騙し騙し、机に向かい続けた。

そうして、こうして、今日を迎えた。
1年前と同じ試験会場。
初めてじゃないというだけでこんなにも気持ちに余裕が生まれるものなのか。門をくぐって少し行った先に待合室がある。そこで時間まで最後の暗記だ。

今見たこのページがもしかしたら出るかもしれない、そんな気持ちで、もう2度とこのページは見ない、そんな気持ちでページをめくる。刻一刻と時間が迫る。

試験は13時から。11時半がきたらごはんを食べよう。そう思いサンドイッチに手をのばすも全く食欲がない。水も欲しくない。足先から頭のてっぺんまで、覚えてきたことをすこしでもこぼれ落ちないように保つことでいっぱいで、口を開くとこぼれてしまいそうだ。胃の中も文字がいっぱい、サンドイッチの入る隙間なんかない。でも、エネルギーがないと途中でバテてしまう、それはまずい。そう思い、とにかく入れる。味などあまりしない。だがとにかくカロリーをとることが大事なのだ。まもなく開場するその前に体調を整えて、そうして今日までを出し切って、さっぱりと終わりたい。早く終わりたい。

周りのざわめきに合わせて自分も移動し、席につく。周りを見渡すと、年配の方も結構多い。20〜30代のほうが少ないようだ。20代の私でさえ、こんなに覚えることが苦痛で大変なのに、40・50歳だともっとキツイだろう。これは決して馬鹿にしているわけではない、自分自身が記憶力や集中力の低下の著しさを痛感しているため、敬意を抱いているのである。私はもう逃げ出してしまいたい。頑張ることをやめてしまいたい、自分で始めたことなのにその勝負から降りてしまいたい、そんな気持ちがどんどん支配を増しているからこそ、きっと自分よりも大変なのにその勝負から降りずに挑戦する方に敬意を抱かずにはいられない。

「始めてください」
その掛け声とともに、ページをめくる音と、ペンの音だけが響く3時間が始める。

やっときた、やっと始まった、やっと終わるんだ。
長かった、去年から今日まで。
何をしていても、いつも頭のどこかに試験がちらついていた。遊んだりごろごろする自分に冷めた目を注ぐ自分が必ずいた。でももうようやく後ろめたさなく自由な時間が過ごせるのだ。ようやく終わる、やっと開放される――。
そんな気持ちが何度も押し寄せながら、時間が消えきるときを待った。

しかし、おかしい、問題がまったく頭に入ってこない。見たことないような文言が並んでいるような気がする。わかる、と思う問題がない。あれ?模擬試験では2回とも7割近くとれていたのに。今日の目標はマークシートだけで6割超え。だから大事なのに、どうしたことか、文字が頭の中に入ってこない。手が進まない、気持ちが、頭が、ついてこない。やばいぞ、これは。異変を感じつつ、なんとか文字を拾い集めていく。肩が痛い、首が痛い、乾燥した首や顔がピリピリする。自信のある回答にたどり着かない。問いの答えがわからない。それでも食らいつこうと姿勢だけは前のめりに。私は解けているのか?よくわからない、というかわからないということは解けていないはずだ。その割合が高すぎで焦る。もう一度見直そう、そう、もう一度、冷静になって、まだ間に合う、まだ大丈夫――「終了してください」

待ち望んだその言葉は、無慈悲に放たれた。

迎えに来てくれた旦那さんの車に乗り込む。笑顔を向けられない。
ガラス越しに見えるオレンジの夕日が綺麗じゃない。もっといつもは濃い元気なオレンジ色をしているじゃない、今日はどうして誰も刺激しないような白い光なの――。夕日にまで気を遣われている気分になる。

ふと、涙が頬をつたう。あぁそうか、まただめだったんだ。採点なんてしなくてもわかっているんだな。

落胆する、もう頑張れない。報われない、気持ちの行き場がない。後悔が押し寄せる。どうしてもっとちゃんと頑張らなかった。時間を食いつぶすような勉強したフリでなく、ちゃんと頭に刻み込むような勉強をしなかった。どうしていつか本気モードになる日がくるなんて思い、日々の中で集中をたもてなかった。どうして試験中に終わることに気を取られてしまった。
気持ちの先はいつだってその瞬間である必要があるのに――。

帰宅し、自己採点をする。
ひどい結末だ。去年よりも点数が低いなんてことありえるだろうか。
どうしてこうなってしまった、なにが悪かった、全てか――。

自分の出来なささが悲しくなって、失望して、落胆して、泣いた。
お守りもくれたのに、稲刈りにも行かなかったのに、読書もブログも控えたのに、実家に帰るのも我慢したのに、遊びの予定も先延ばしにしたのに、頭や肩・首・目が疲れ果てるまで酷使したのに――。
どうしてあと少し気持ちを保てなかったのか、体を保てなかったのか――。
悔いて、泣いて、落胆して――それを繰り返し、悔いても泣いても何も変わらない、その事実を受け止めるまでに落ち着いた。

起き上がり、顔を洗う。
手が触れるだけで痛いほどに首のリンパが腫れている。首をひねると痛いほどに肩が凝っている。顔のあちこちにニキビができている。

あぁそうか、全部無理やりだったからだめだったんだ。試験中に限界が来るまで首肩の疲れをためるべきではなかった。運動もなにもかも抑制して勉強の時間に回すのではなく、マッサージにでも行ったり運動したりしながら体調を整えていくべきだったんだ。ニキビができるほどストレスを感じながら夜まで勉強するのではなく、ちゃんと睡眠をとりながらコツコツ勉強をするべきだったんだ。ご飯が入り込む隙間がないほど文字を体にむりくり直前に入れ込むのではなく、直前はリラックスできるように事前に一生懸命になるべきだったんだ。もう無理な気持ちや体を騙して押し込めていたから、最後まで保たなかった。終わりを望みすぎて、冷静にいられなかった。すべてが表面的で一時的だったんだ。

それでも、それでも私なりには頑張ったんだけどなぁ。
もう頑張れない、そう思う。頑張りたくないと思う。
司法試験に比べると簡単なのにと良い意味でハードルを自分の中で下げてきた。
それに受からない情けない自分。淀んだ気持ちをどこへ持っていけばよいのかわからない。自業自得の悲劇のヒロインか、可哀想すぎるね。感傷に浸って浸って浸りつくせば、別の何かになれるかなーー

ひとしきり反省し感傷にひたったあと、「問題の答えはなんだったのか」「気持ちや体調云々の前に、本当に私の知識では解けなかったのか」が気になり始めた。ゆっても約2年勉強したのに、なんでこんなにわからなかったのか、おかしくないか?今年の難易度は?みんなはどうだったのか?そこまで私はばかなんか?惜しい問題はなかったのか?どうすれば答えまでたどり着けたのか。
新しく疑問が沸々と湧き出る。悔しい――

あれ、もう終わるはずだったのに、気づかないうちにまた進もうとしている――?もう断ち切れた?早くない?でもまぁいいことか。嘆いても何も変わらないし、ひとまず進めば、いつか喜劇のヒロインくらいになれるかな。

コケて、立ち上がって進めどまたコケて。
痛くて泣いて、疲れて寝て。
それでもいつまでもコケたままじゃいられないからやっぱりまた立ち上がる。
悲しさを出し切ったら、空いたスペースに何を入れよう。
次はもう少しうまく歩けるかな。